10年越しの加入
広島弁護士会会員 木 浩治

10年ひと昔
 私が「国民年金基金」という言葉を初めて聞いたのは、おそらく10年前の新人義務研修会の後の国民年金基金の説明会の時だったと思います。説明会では、担当理事の先生が、私を含む新人弁護士に向かってパンフレットを使いながら国民年金基金の概要等を説明して下さったように記憶しています。10年前の話なので、説明内容までは憶えていません。ただ、その先生が、説明の中で「君たちは、弁護士がどのくらいまで生きるか知っていますか?かなり大雑把ではありますが、弁護士は、50歳前後で早死にしないかぎり、そのほとんどが90歳近くまで生きます。」「働き過ぎや不摂生で50歳前後で亡くなることが結構あるんですよ。でもその後は平均寿命を超えて生きるんです。弁護士に定年はありませんが、弁護士も年を取れば、気力も体力も落ちて仕事もできなくなります。そのとき、生活の糧になるのが年金です。今からバリバリ働いて稼ごうと燃えている君たちに引退後の話をしてもなかなか理解してもらえないかもしれませんが、備えあれば憂いなしです。ぜひ、将来の為にも国民年金基金に加入してくださいね。」という趣旨の話をして下さったのを10年経った今でも憶えています。担当の先生は、引退後の生活資金として年金が大事という趣旨でお話をされたのかもしれませんが、当時の私にとっては、50歳前後で死ぬことも珍しくないという話に強烈な印象を受けました。幸いなことに弁護士10年目まで大病や大けがなどもなく健康を深く意識することもなく過ごしてきました。なので、心のどこかで「自分はまだ大丈夫。自分は平均寿命を超えて90歳まで生きる方だ」と勝手に思い込んでいる節があります。もっとも、近ごろ、人間ドックでの数値が悪かったので運動を始めたとかビールは控えているなどという話をよく耳にするようになりました。時折、健康のために始めたジョギングが高じてフルマラソンを完走したという話を聞くこともありますが。
 日ごろの積み重ねが大事ということは分かってはいるのですがなかなか行動に移せずにいます。

毎年贈られてくるラブレター

 国民年金基金にすでに加入した先生方はお忘れかもしれませんが、国民年金基金未加入の弁護士には、毎年9月ごろに加入勧奨のファックスが送られてきます。そのファックスには、その年の9月、10月または11月に国民年金基金に加入した場合の加入月ごとの節税額が記載されています。
 私は、弁護士5年目の夏まで金融機関で企業内弁護士として働き、厚生年金基金に加入していました。ですから、加入勧奨のファックスを貰っても読むことはありませんでした。企業内弁護士時代は、厚生年金の掛金は、給料から天引されていました。当時の私に厚生年金の掛金を自ら支払っているという感覚はなく、正直なところ、負担感はほとんどありませんでした。今から思うと、当時は負担感なく、将来の備えをしていたという理想の状態だったのかもしれません。
 私が、加入勧奨のファックスを初めて真剣に目を通したのは、企業から法律事務所に移った弁護士5年目の秋でした。ファックスを読んだ直後は、「結構な節税額だな。これは加入しておかないと」という気持ちになったのですが、毎月数万円の掛金を支払うことに負担感もあったのでしょう、結局加入申込みをすることなく年を越えていました。その後、確定申告の時期に「もし、あの時国民年金基金に加入しておけば節税できたのに」と後悔しました。そして、この後悔は、その後加入まで毎年繰り返されることになります。

独立を前にしてようやく加入

 そんな私もついに昨年の秋、国民年金基金に加入しました。
 何が加入のきっかけになったかといえば、やはり、今年1月に独立することを決めたことだと思います。
 独立を決めてからは、自分や家族の将来設計についても真剣に考える機会が増えました。そんな中で老後の生活資金のシミュレーションなんかもしてみたりしたのですが、年金の受給額の少なさに愕然としたのを憶えています。
 「アリとキリギリス」という寓話でいえば、まさに「キリギリス」でした。将来、優しい「アリ」さんが手を差し伸べてくれればいいのですが、そんな話はあるわけもなく、独立を前にようやく「アリ」さんになろうと決意した次第です。

以上
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陽だまり 2017 No.45より