スポーツとくに駅伝観戦の勧め | ||
東京弁護士会会員 太田治夫 | ||
下手なりに様々なスポーツをプレーするのも好きだが、優れた技術と運動能力に秀でたアスリート達の活躍を応援するのもまた楽しい。これからの季節の寒さを考えるとTV観戦が快適だが、ウインタースポーツこそ生で観戦することをお勧めしたい。
晩秋から正月にかけて大学陸上界は出雲、全日本、箱根と駅伝競走のトップシーズンを迎える。そのなかでも正月2日、3日にかけての箱根駅伝は年始恒例の行事となっており、スポーツファンの関心も高い。ご承知のとおり、都心の大手町から箱根芦ノ湖までの往復217.9Kmを2日間10区間に分けてタスキを繋いでいくこの長距離駅伝では、コースの厳しい変化と相まって、毎年抜きつ抜かれつのスリリングなレースが展開されている。 我が家の息子達は、物心つく前から毎年箱根駅伝のTV放送を食い入るように見つめてきた。幼稚園に上がる前には、使い古しのネクタイをタスキに見立てて家の中で走り回っていたし、長じると父親の出身校を「ウチ」と呼んで、出場選手情報の入手に余念がなくなった。挙げ句の果てに、長男は父親と同じ大学に入学して、文字どおり「ウチ」の学生を応援している。 そんな息子達にまだ可愛げのあった頃、元日の初詣を終えた我が一家は、気の向くままドライブに出かけ箱根にたどり着いた。翌2日は、午前中に箱根神社に参拝し、その帰り道往路5区の箱根駅伝を直接応援しようということに。5区は、国道1号線(東海道)の箱根口から箱根湯本、大平台を通って、宮ノ下で国道138号線と別れ、芦ノ湯まで一気に駆け上った後芦ノ湖に駆け降りる急峻な難所区間である。逆に殆どが下りの高速区間となる復路6区ともども、この箱根路で各校が大きく順位を入れ替えることもしばしばで、これほどランナーに過酷で、見る者にとってスリリングな区間はない。 昼過ぎに車で芦ノ湖を出発、国道1号線をのろのろと走り、ランナーとは反対車線から応援することとした。待つことしばし、九十九折りの急坂を選手達が駆け上ってきた。箱根山の冷えて澄み切った空気の中を、各校の選手が白い息を大きく吐き、あえぎながら、しかし、しっかりとした足取りで歩を進めてくる。1分1秒でも早くとゴールを目指す者、前を行く走者を追い詰め追い越そうとする者、みな必死の形相である。その呼吸音は少し離れたカーブの向こうから聞こえ迫ってくる。さまざまなスポーツを観戦してきたが、選手の呼吸をこれほど間近に聞いたことはなかった。感動すら覚えるほどで、出身校に限らず全校全選手にエールを送ったことは言うまでもない。 駅伝ファンならずとも、一度箱根路の沿道で観戦することをお勧めしたい。チーム全員の思いを繋いできたタスキを背負い、母校の名誉をかけて選手が走り抜けていく様は観る者の心を掴んで放さないだろう。ただし、自動車で出かけて応援しようとする方には前泊がお勧めである。なぜなら三が日の道路は渋滞し、よほど朝早く東京を発たないと現地には間に合わないから(その後「感動を再び」と当日出かけ、何度も失敗している)。
弁護士の生涯は、チームワークの必要な駅伝というより、孤独な個人の闘いであるマラソンにでも喩えられるべきか。平坦な道のりではなく、個々人が地道にペース配分を考えていかなければならない。 弁護士国民年金基金には、平成3年の設立時に加入した。私自身独立直後の30代前半で、正直いって加入時に強い動機があった訳ではなかった。もともと身体は丈夫で風邪以外に殆ど病気をしたことがなく、定年のない弁護士業であるので、当時は働ける限り働き続ければよいという安易な考えでいた。その後15年経って身体の丈夫であることには変わりないが、働き続けることについては少々自信が揺らいできている。司法制度改革と弁護士大増員時代の到来によって、5年後はまだしも、10年後、20年後の弁護士業界の姿は混沌として見えてこない。ただ競争激化は容易に想像でき、この先、健康で就労可能というのと、弁護士としてそれなりの収入を上げられるというのとでは、自ずと異なってくるように思われる。脂の乗っている時期に国民年金基金に加入し、将来に備えるというのは、弁護士として必要な地道なペース配分のあり方ということになるのではなかろうか。 |
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陽だまり No.29 `06.11より |